『臨床工学技士』は、病院や診療所などで呼吸や循環、代謝といった、生命の維持に直接関わる機能を代行・補助する「生命維持管理装置(人工呼吸器、人工心肺装置、血液浄化装置など)」を操作する職業です。
生命維持管理装置の中には、人体に影響を与えるものもあるので、装置を常に安全に使用できるように、メンテナンス業務も行っています。
そんな臨床工学士の年収について興味はありませんか?
ここでは、臨床工学技士の年収や仕事内容、臨床工学技士になるために必要なことをなどについて詳しく解説していきたいと思います。
興味のある方は、ぜひこちらの記事を一読してみてください。
臨床工学技士とは?
医療機器に精通している臨床工学技士は、現代医療において必要不可欠な存在です。
多くの医療機器を取り扱うため、幅広い知識や技術が求められます。
英語では「Clinical Engineer(CE)」や「Medical Engineer(ME)」と呼ばれており、臨床工学技士には医学だけでなく工学に関する専門知識も求められます。
そのため、臨床工学技士の仕事は決して容易ではありません。
それでは臨床工学技士はいったいどのような業務を行なっているのでしょうか?
仕事内容
ここからは、臨床工学技士が担う仕事を9つの業務を紹介していきます。
※臨床工学技士の仕事内容は、勤務先の診療科や施設施設の規模によっても異なります。
呼吸治療業務
呼吸不全や肺の機能が働かなくなった患者さんに人工呼吸器を装着し、それが問題なく稼働しているかチェックしたり、人工呼吸器の保守点検やメンテナンス、管理をしたりする業務です。
人工呼吸器は病室だけでなく、集中治療室や手術室でも使用されているため、臨床工学技士の仕事の中でも重要度の高い業務といえます。
呼吸療法サポートチーム(RST)に参加し、多職種と連携して治療方針を話し合うこともあります。
人工心肺業務
心臓や心臓付近の手術時には、心臓に流れる血液の循環を体外で管理する必要があるため、心臓や肺の機能を一時的に止める必要があります。
その間に心臓や肺の代わりになるのが「人工心肺装置(体外循環装置)」です。
人工心肺装着装置は、患者さんの体に合ったサイズを使用する必要がある他、専門的知識や的確な判断、操作が求められます。
臨床工学技士は人工心肺装置やその周辺機器の点検や準備、操作、記録を担当します。
人工心肺業務で使用する医療機器は、正しく操作しなければ人工心臓の回路内で血液が凝固するなどのトラブルに発展する恐れがあるため、緊密で集中力を保つことが重要な業務です。
血液浄化業務
血液浄化業務は、腎臓が十分に機能していない患者さんの体内に溜まっている毒素や老廃物を、さまざまな方法で体外に排せつさせる仕事です。
血液を浄化させる方法には、「血漿(けっしょう)交換療法」や「血液吸着法」などがありますが、最も一般的なのが、慢性腎不全など腎機能が低下した患者さんに対しておこなわれる「人工透析(血液透析)」です。
人工透析は週3回、1回3〜5時間を要します。
血液浄化業務を担当する場合は主に透析室に勤務することが多く、そこでの基本的な業務内容は、回路の組み立てや穿刺・返血、透析中の装置や血圧の確認などです。
医療機関の中には、人工透析を専門とするクリニック・病院も多く、人工透析装置の操作、管理メンテナンスのみを担当する臨床工学技士もいます。
手術室業務
手術室で使用する医療機器が正常かつ安全に作動するかどうか、始動前に点検を行うのも臨床工学技士の仕事です。
人工心肺装置や生体情報監視装置、麻酔器、電気メスなど、手術室には多種多様な医療機器が使われているため、臨床工学技士にはそれぞれの取り扱いについて深い理解が求められます。
手術中は医療機器が正常に動いているかモニタリング、トラブル起こればすぐに対応するなどして、手術を安全に進められるよう業務をおこないます。
集中治療業務
集中治療業務では、呼吸や循環などが急性機能不全に陥った重篤な患者さんに、生命維持管理装置を使用し、24時間体制で治療・管理をおこないます。
重篤な患者さんは容態が安定しないため、血液浄化装置、補助循環装置、人工呼吸器などによる生命維持が不可欠です。
臨床工学技士はこれらの機器の操作と保守・点検を担います。
患者さんの状態によって使用する装置は異なるので、集中治療業務を行う際は、患者さんの状態をしっかりと見極めることが重要です。
心血管カテーテル業務
心血管カテーテル検査業務は、動脈圧、心電図、動脈血酸素緩和度など、複数人ポイントから患者さんのバイタルをチェックしたり、心臓病の診断をしたりする仕事です。
カテーテルを用いた検査・治療は、開腹の必要がなく身体的負担が少ない方法として広く実施されています。
また、心血管のカテーテル検査は、手術の術式を決定するための重要な仕事でもあります。
緊急時には、体外式のペースメーカーや補助循環装置を操作する場合もあります。
その他、清潔介助者として、検査や手術がスムーズに進むよう医師をサポートすることも、臨床工学技士の役割です。
高気圧酸素業務
高気圧酸素治療装置を使用し、通常より高い気圧下で高濃度の酸素を吸入する治療法です。
酸素濃度を大気圧の2倍ほどに上げた高気圧酸素治療装置で、患者さんを安静に保てば、血中にある酸素濃度をアップさせることが可能です。
全身の酸素不足を解消することで、一酸化炭素中毒や心筋梗塞、脳梗塞や減圧症などの症状に効果的とされています。
臨床工学技士は、高気圧酸素装置の操作と点検を行うほか、治療に付き添い患者さんに異常がないか観察します。
ペースメーカー・ICD業務
ペースメーカー・ICD業務では、不整脈の患者さんに対してペースメーカー、ICD(植え込み型除細動器)といったデバイスの植え込み手術を行います。
植え込まれる心臓デバイスの確認や、植え込み手術中の装置確認はもちろん、手術後の定期外来におけるメンテナンスも、臨床工学技士の重要な仕事です。
また、手術に使用されている医療機器の中には、ペースメーカーやICDに影響を与える恐れがあるものもあるため、医療機器による影響を避けるため、手術前には医療機器の設定調整をおこなうなど、機器のチェック業務も欠かせません。
医療機器管理業務
手術室以外にも病院では、生体情報モニタや輸液ポンプ、シリンジポンプ、人工呼吸器などのさまざまな医療機器が使用されおり、院内での貸出・返却については医療機器管理室でまとめて管理されています。
医療機器管理室で働く臨床工学技士は、これらの医療機器をいつでも安全に使用できるように点検し、院内各所に貸し出しをおこなっています。
機器に不具合があれば修理などの対応もおこないます。
また、現場スタッフを対象に、医療機器の正しい使い方などを説明する講習会を開催する場合もあります。
臨床工学技士と臨床検査技士の違いは?
臨床工学技士と名前が似ている「臨床検査技士」という職業があります。
臨床検査技士は、医師の指示のもと厚生労働省が定める、「検体検査」や「生理機能検査」の臨床検査をおこなう人のことを指します。
検体検査は、患者さんの血液や尿、細胞、体腔液などの液体を調べる業務で、検査の説明や採血、採取をおこない、精度の高い正しい検査結果を提供しています。
生理機能検査は、心電図検査、脳波検査、呼吸機能検査など多くの検査があり、患者さんの体から直接情報を医療機器で記録することで患者さんの状態を調べます。
医師は検査技士による検査結果をもとに治療方針の決定や診断をおこなうので、臨床検査技士がおこなう業務は重要な仕事です。
臨床工学技士と臨床検査技士は、どちらも医療機関に勤務する仕事であることから間違えてしまいやすい両職種ですが、業務内容はもちろん働く場所も異なっており、それぞれが専門的な知識や技術を生かすことでチーム医療として患者さんの治療に貢献しています。
また、臨床工学技士は男性が多いのに比べ、臨床検査技士は女性が多いという違いもあります。
臨床工学技士は医療技術者の中でも工学に特化しており男性のイメージが根強く、それに対して臨床検査にはエコーや心電図など脱衣を伴うものがあり女性技士ニーズが多いことが理由として挙げられるようです。
臨床工学技士 | 臨床検査技士 | |
業務内容 | 生命維持装置の操作
医療機器のメンテナンス業務 |
診断や治療のために必要な検査業務 |
勤務先 | 病院や診療所
医療機器メーカー など |
病院や診療
臨床検査センター 製薬会社 医療機器メーカー など |
就業人口 | 約3万人 | 約6万8,000人 |
男女比 | 7:3 | 3:7 |
臨床工学技士になるには?
受験資格取得
臨床工学技士になるには、国家試験に合格し臨床工学技士免許を取得しなければなりません。
臨床工学技士国家試験の受験資格を得るには、4年生大学、3年制短期大学、専門学校のような養成校で厚生労働大臣の指定する科目を修了する必要があります。
大学(臨床工学科)
臨床工学を4年間じっくり学べるのが特徴であり、研究室では高度な研究にも参加できます。
卒業後は大学院に進学することで、より高度な知識を学ぶことも可能です。
将来的に大学病院や企業で研究職に就きたいと考えている人は大学に行く人が多いです。
大学は専門学校と比べて学費は高いですが、広く一般教養が身につき、将来性も高くなります。
専門学校(臨床工学科・臨床工学技士科)
即戦力を養成することに力を入れているのが大きな特徴です。
授業は実践を見据えた内容が多く、人工呼吸器実習、人工心肺実習、透析実習などをおこなう他、実際の医療機器の操作方法なども学びます。
医用工学の資格であるME検定や、国家試験に関わる学習も積極的に行われています。
専門学校は2年制なので、「少しでも現場で経験を積みたい」場合には、専門学校を選ぶのが良いでしょう。
また、看護師や診療放射線技士、臨床検査技師などの国家資格を保有している方は(資格を保有していなくても指定科目の単位を取得していれば)、1〜2年の専攻科を修了することで国家資格の受験資格を得ることができます。
国家試験の難易度・合格率
臨床工学技士の国家試験は年に1回実施されています。
過去5年間の合格率は、70〜80%程となっており、合格者の過半数が新卒者となっています。
臨床工学技士は受験資格を得るまでの期間が長いものの、試験の難易度自体はそう高くありません。
地道に学習した上で十分な受験対策を行えば、合格できる可能性は高くなるでしょう。
資格は一度取得できれば一生涯有効です。
臨床工学技士の年収(給料)
それでは、臨床工学技士の年収はどれくらいのなのでしょうか?
ここからは、臨床工学技士の平均年収や、地域別(関東地方)年収を詳しく解説していきます。
平均年収
臨床工学技士の平均年収は、約430万円程です。
月収で見ると29万円程度で、そこに賞与(2〜5ヶ月分)や残業代、夜勤手当や透析業務手当がプラスになります。
臨床工学技士は、1988年にスタートした比較的新しい職種なので、他の医療系職種と比べると、給与水準がやや低くなっているようです。
給与額は、勤め先によってかなりの差があり、経験や年数、業務などによっても異なります。
地域別(関東地方)年収
茨城県 | 約422万円 |
栃木県 | 約381万円 |
群馬県 | 約418万円 |
埼玉県 | 約476万円 |
千葉県 | 約393万円 |
東京都 | 約440万円 |
神奈川県 | 約395万円 |
上記の通り、関東地方で臨床工学技士の平均年収が最も高いのは、埼玉県になります。
東京都の年収は、関東地方の中では2番目の年収となっています。
おわりに
ここまで、『臨床工学技士の年収』について解説しました。
臨床工学技士の年収は、約430万円程です。
臨床工学技士は1988年にできた比較的新しい職種なので、医療系職種の中ではあまり高い年収額とは言えませんが、需要の高い職種なので今後徐々に上がっていくことが予想されます。
こちらの記事が、臨床工学技士を目指している方や、年収が気になっている方の参考になれば幸いです。
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