書類の作成や申請の代行、相談にのるなど幅広い業務をこなす行政書士は、国家資格の中でも人気資格のひとつです。
資格取得を目指し勉強中の人や、これから始める人は、実際に行政書士として働く場合の年収が気になる人も多いのではないでしょうか。
本記事では、行政書士の年収を働き方や業務内容による違いを比較しながら、解説していきます。
行政書士とは
行政書士は、県庁や市役所などの官公署に提出する書類を作成したり、手続きの代行や申請に関する相談を受けるのが仕事です。
書類や申請はかなり幅広く、1万種類を超えるとも言われています。
私たちの暮らしに身近なものだと、遺言書や相続に関するもの、自動車登録申請、重量税、日本の国籍取得のための申請などがあります。
また、ビジネス関連の業務では、中小企業支援や法人関連業務、知的財産権の保護など会社の重要な手続きに関わります。
特別な研修を終了した「特定行政書士」は、今まで弁護士にしかできなかった業務の一部を行うことができます。
行政書士の収入のしくみ
行政書士事務所では、一般的に業務内容毎に報酬(手数料)が設定されています。
よって、顧客より依頼を受けた場合、その内容により設定された金額の報酬を受け取ります。
行政書士へは、そこから給与として報酬が支払われ、独立開業の場合は、顧客より受け取った報酬がそのまま収入となります。
事務所や企業へ就職した場合は、毎月一定額の給与支払いがありますが、独立開業している人は、業務実施の都度、直接報酬を受け取る流れです。
雇用されている場合と異なり、業務一件あたりの手数料の金額が大きければ大きいほど、収入も大きく変化します。
頑張れば頑張った分だけ年収に反映されるしくみです。
報酬を得られるタイミングは
一概に言えませんが、たいていは業務を依頼されて着手をする際に報酬をもらうことが多いようです。
法人で特に決まりが無い場合は、いつ報酬をもらっても良いですが、業務を開始した後で急なキャンセルが発生することもあります。
また、業務完了後に報酬の支払いをしてくれないというトラブルが発生する可能性もないとは言えません。
このようなトラブルや無駄な時間を作らないためにも、報酬は事前に支払いを依頼するケースがほとんどです。
行政書士の年収は統計調査されていない
職業の統計調査は、公的に実施されるものとして、国税庁での「民間給与実態統計調査」や厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」があります。
しかし、このような公的機関において、行政書士の年収については統計調査されていないのが現状です。
行政書士の業務内容が、多岐にわたり非常に幅広く、またその働き方によっても大きく異なる点が理由の1つと考えられます。
しかし、民間による独自調査等によるおおよその年収が公開されていることがあります。
年収を知りたい場合は、インターネット等で一般的に公開されている調査データを参考にすると良いでしょう。
年収は働き方や扱う業務内容により異なる
行政書士の業務は、他の職業と比較しても自由度が高く、働き方は多様です。
独立し開業するケースや、企業の社員として雇用されるケース、また副業として行政書士の仕事をこなす場合もあります。
また、雇用形態以外には、業務内容そのものにより収入額が大きく異なります。
顧客より依頼された書類作成の場合、20,000円~200,000円位が相場ですが、その他さまざまな許可申請等では、内容により単価10万円~50万円ほどになることもあります。
このように、働き方や取り扱う業務内容は幅広いので、内容によりそれぞれ収入面も違いが出るのです。
勤務型の年収
行政書士として仕事をする際に、法律事務所や企業などで雇用されることを勤務型と言います。
これは、雇われ勤務する行政書士となるので、一般的な会社員と同じです。
法律事務所や企業に身をおく場合、比較的高い水準での収入が見込めるため、まとまった年収を得ることが可能と考えられます。
このような勤務型の平均年収は、約300~600万円程度が相場となります。
独立開業型と比較すると、年収の面で低くなる可能性が高いですが、一度就職してしまうと安定した収入が得られるのがメリットです。
また、将来的に独立を目指している人も、一旦就職して経験を積むために勤務型を選択する場合があります。
勤務型のメリット・デメリット
勤務型で就職した場合のメリットは、やはり安定した収入を得る事ができる点です。
雇用されているため、自身で仕事を選べないデメリットはありますが、仕事の受注量に左右されず、決まった額の収入があるのは安心です。
また、勤務型の行政書士としてしばらく経験を積んでおき、将来的に独立開業を目指すという選択肢もあります。
はじめから独立開業することに不安を感じる人は、勤務型で業務経験を積みながら、独立の準備をしていくのがおすすめです。
ただし、勤務型の行政書士としての求人数は、かなり少ないのが現状なので注意しましょう。
独立開業型の年収
行政書士として都道府県の行政書士会へ登録し、自身で開業し業務を行うのが、独立開業型です。
独立開業型での平均年収は、約500~1,000万円程度と言われています。
日本の平均年収が約458万円であることから、独立開業している行政書士の年収は、これを大きく上回る金額です。
勤務型と異なり、営業し案件を自分で獲得する必要があるため、広い人脈や高いコミュニケーション能力、経営能力も必要となります。
安定して稼げるようになると、年収1,000万円以上も夢ではありません。
また、社会保険労務士や司法書士等のダブルライセンスを持つことで、業務の幅が広がり、更なる収入アップにつながります。
独立開業型のメリット・デメリット
行政書士として、独立開業をした場合、大きなメリットがあります。
- 高収入の可能性が広がる
- 定年が無くなり、長く働ける
- プライべートの時間を確保しやすい
- 自分のペースで働くことができる
一方で、デメリットとなるのは以下のような点です。
- 収入が一定でなく不安定になる
- 経営スキルを身に着け、自身で営業をする必要がある
- 経営が軌道に乗るまで時間を要する
独立開業後、経営を軌道に乗せるまでは勤務型と収入があまり変わらない場合もありますが、軌道に乗りさえすれば大きな違いが出る可能性があります。
他職業との比較
行政書士の資格をすでに持っている人や、これから取得を目指している人は、他の資格取得を検討している場合もあります。
行政書士以外の職業と比較した場合、年収の違いはどのくらいなのか気になる人も多いのではないでしょうか。
士業といわれる他の職業の平均年収を一部紹介します。
税理士 | 658.6万円 |
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司法書士 | 945.4万円 |
弁護士 | 945.4万円 |
社会保険労務士 | 1029.5万円 |
中小企業診断士 | 1029.5万円 |
出典:厚生労働省
あくまでも平均年収となるので、雇用形態や業務内容により、金額は大きく変わります。
1つの目安としてチェックしてみてください。
行政書士の年収を高めるには?
行政書士の年収は、雇用形態や業務内容により大きく異なりますが、自分の努力次第で平均よりも多くの収入アップが期待できます。
ここでは、行政書士の年収を高めるための方法について詳しく解説していきます。
1.高単価な案件を専門にする
行政書士の業務では、内容により細かく単価が設けられるのが一般的です。
例えば、「遺言書の作成」5万円~、「契約書類の作成」3万円~、という設定となります。
この案件の中で、1件あたりの単価が大きいものを中心に受けていくことができれば、収入も大きく変わってきます。
業務をこなしていく中で、自分の専門性を高めていき、高単価案件による収入アップにつなげるのがポイントです。
高単価案件とは
行政書士の扱う業務の中で、業務単価が高額な案件を紹介します。
1件当たりの単価が大きいため、1ヶ月に数件業務にあたるだけで、大きな月収になる可能性があります。
・帰化許可申請:200,000~300,000円
・産業廃棄物業許可申請:100,000~500,000円
・NPO法人設立認証:200,000円
あくまでも平均的な目安として、参考にしてください。
2.ダブルライセンスの取得で業務の幅を広げる
行政書士の業務は、かなり幅広く内容も多岐にわたりますが、その分だけ他の資格とも共通する点が多いのが特徴です。
そのため、行政書士以外の資格も持っていると業務の幅が広がり、範囲に縛られずにスムーズな対応ができます。
業務の幅が広がれば、受注可能な仕事の幅をグンと広げることもできるので年収アップの近道です。
また、仕事の幅が広がると自然と人脈も広がり、より多くの業務を受けられる可能性が高くなります。
将来的に、大きく仕事の幅を広げていきたいと考えるならば、行政書士と合わせて他の資格取得も検討してみましょう。
相性の良い資格は
行政書士は、以下のような資格と相性が良いので参考にしてください。
- 司法書士
- 社会保険労務士
- 土地家屋調査士
- 宅地建物取引士
- ファイナンシャルプランナー
- 税理士
- 中小企業診断士 など
3.独立開業し営業スキルを高める
行政書士として仕事をするには、勤務型で企業等に雇用される方法もありますが、収入アップを目指すなら独立開業をおすすめします。
独立開業し、自身で営業することにより、人脈を広げ仕事の幅を広げる事ができるからです。
経営に対する能力も多少は必要となりますが、専門分野に特化してさらに業務を広げていくことで、行政書士としてのスキルも高まります。
報酬単価が高く設定される需要の高い分野を専門として営業し、集客をしていけば今後の大きな年収アップに繋がります。
自身の専門性を高めることで、他の行政書士との差別化を図ることも大切なポイントです。
自分の強みを磨き、アップした収入を安定させましょう。
開業する際の流れ
独立開業する際には、以下のような流れで手続きが必要です。
また、都道府県行政書士会への登録費用として、200,000円~300,000円程度がかかります。
登録は必須ではありませんが、登録しないと行政書士を名乗れず、行政書士会の研修等も受けられないので注意が必要です。
1)事務所の場所を決める
2)都道府県行政書士会へ登録
3)約1カ月後に役員による事務所調査実施
4)税務署に開業届と青色申告承認申請書を提出
5)行政書士として活動が可能
自分に合った働き方を選択する
他の士業と比較すると、行政書士の年収は決して高いものではありません。
しかし、行政書士はさまざまな働き方や業務を選択することが可能であり、選択によっては平均年収以上の高収入が見込める職業でもあります。
勤務型と独立開業型、どちらが自分の働き方や生活スタイルに合っているのかをよく見極めて判断するようにしましょう。
就職して勤務型として仕事をすれば、経験を積みながら安定した収入を得られる反面、年収はあまり高くないのが現実です。
ただし、開業さえすれば年収アップが望めると単純に考えるのも危険です。
独立開業するには経営や集客のための営業スキルや、経営を軌道に乗せるまでの忍耐強さも必須となります。
年収は個人差があります。
今後のプランをしっかりと立てて、自分に合った働き方で経験を積むことをおすすめします。
性別による年収の違い
以前は男性の職業というイメージが先行しがちだった行政書士ですが、女性の割合は全体の約15%程度と言われています。
割合としては、女性の方が圧倒的に少ない印象ですが、性別によって年収の大きな違いは特にありません。
行政書士として同じ条件下で業務にあたる場合、当然ながら性別は関係なく同じ報酬を得ることになります。
ただし、女性の場合は出産や育児による休暇、または子育て中のパートタイムでの勤務等により、一時的に年収が下がる可能性もあります。
まとめ
ここまで、行政書士の一般的な年収について紹介してきました。
人気の資格であるがゆえに、ライバルも多く高い収入を得ることも簡単ではないのが、この職業の特色です。
ただし、多数の業務の中でも需要の多い高単価な案件を専門としスキルを磨いていけば、いずれ大きな収入や安定した経営に繋がります。
年収がアップするかどうかは、どのくらい経験を積んで、いかに人脈や自身の能力を広げられるかにかかっています。
行政書士として活躍するなら、ぜひ独立開業にチャレンジし、将来的にダブルライセンスの取得なども検討して高収入をめざしましょう。
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