年収を上げていくと、いくつかの「壁」にぶつかることがあります。
この壁を乗り越えられるかどうかで、手取り額に大きな違いが出てきます。
ここでは年収の壁とは何か、具体的にどのような壁があるのかについて解説していきます。
年収の壁とは?
年収の壁とは、年収が一定の金額を超えると、税金や社会保険料の負担が増え、手取り額が減ってしまう現象のことを指します。
年収が上がっても、思ったほど手取り額が増えないどころか、逆に減ってしまうのです。
具体的には以下の6つの壁があります。
- 100万円の壁(住民税の壁)
- 103万円の壁(所得税の壁)
- 106万円の壁(社会保険の壁)
- 130万円の壁(扶養の壁)
- 150万円の壁(配偶者控除の壁)
- 201万円の壁(配偶者特別控除の壁)
それぞれの壁について詳しく見ていきましょう。
100万円の壁(住民税の壁)
パート・アルバイトの年収が100万円を超えると、住民税の負担が生じます。
住民税とは、住所がある都道府県と市区町村に納める税金のことで、所得に応じた「所得割」と、一定額の「均等割」の合計額になります。
たとえば東京都の場合、年収102万円の住民税は9,000円になります。
年収が上がっても住民税の負担が増えるため、手取り額としてはそれほど変わらない、あるいは減ってしまう可能性があるのです。
年収102万円の場合の東京都の住民税計算例
所得割:4万円(102万円-給与所得控除55万円-基礎控除43万円)× 10% = 4,000円
均等割:区市町村民税3,000円+ 都民税1,000円+ 森林環境税1,000円= 5,000円
住民税合計:4,000円+ 5,000円= 9,000円
103万円の壁(所得税の壁)
給与所得者の場合、年収が103万円を超えると所得税の課税対象となります。
103万円までは基礎控除と給与所得控除の適用で所得税は0円ですが、103万円を超える部分には所得税がかかるようになります。
年収103万円 – 給与所得控除55万円 – 基礎控除 = 所得税0円
年収が110万円の場合、103万円超の7万円に5%の税率で所得税3,500円がかかり、その分手取りが減ります。
ただし、各種控除の適用で103万円を超えても所得税がかからないケースもあります。
2024年度税制改正により、所得税と住民税の定額減税が実施される予定です。
年収が103万円から105万円に増えても、手取り額は住民税と所得税の負担で104.9万円になってしまうのです。
106万円の壁(社会保険の壁)
一定の条件を満たすパート・アルバイトは、年収106万円を超えると社会保険の加入が義務づけられ、保険料の負担が生じます。
社会保険の加入条件は以下の通りです。
- 勤務先の従業員数が101人以上(2024年9月までは101人以上、10月からは51人以上)
- 週の所定労働時間が20時間以上30時間未満
- 勤務期間が2ヵ月を超える見込みがある
- 学生ではない
- 賃金が月額8万8,000円以上(年収換算で約106万円)
東京都在住、40歳以上65歳未満の健常者で、年収106万円の場合、社会保険料は年間約16万円になります。
年収100万円から106万円に増えても、社会保険料と住民税の負担で手取りは約89.5万円に減ってしまうのです。
年収106万円の場合の社会保険料計算例
健康保険料10.0% + 介護保険料1.82% + 厚生年金保険料18.3% = 30.12%
106万円× 30.12% ÷ 2 = 約16万円(従業員負担分)
※介護保険料は40〜64歳の第2号被保険者が対象
ただし今後は、フリーランスや個人事業主・自営業の人であっても、社会保険に加入が義務付ける流れで議論が進んでいます。
130万円の壁(扶養の壁)
年収130万円(月収換算で約10万8,333円)を超えると、配偶者や親の扶養から外れてしまいます。
扶養から外れると、自身で国民健康保険や勤務先の社会保険に加入しなければならず、保険料の負担が生じます。
ただし、勤務先によっては130万円を超えても、すぐに扶養から外れるわけではない場合もあるので、扶養認定の基準は要確認です。
なお130万円の壁には交通費も含まれるので、106万円の壁とは異なります。
150万円の壁(配偶者控除の壁)
配偶者の年収が150万円を超えると、自身の所得税・住民税の配偶者控除額が減ってしまいます。
配偶者の年収が150万円の場合の配偶者控除額は38万円ですが、160万円になると控除額は31万円に減額されます。
その分、自身の所得税・住民税負担が増えることになるのです。
また、自身の年収が900万円を超えている場合も配偶者控除が減額・廃止となるので注意が必要です。
201万円の壁(配偶者特別控除の壁)
配偶者の年収が150万円を超えると、配偶者特別控除が段階的に減っていき、201万円を超えるとゼロになります。
配偶者特別控除が全く受けられなくなるボーダーラインが201万円なのです。
配偶者の合計所得金額 | 【参考】 配偶者の収入が給与所得だけの場合の 配偶者の給与等の収入金額 |
控除額 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
納税者本人の合計所得額 | |||||||
900万円以下 | 900万円超950万円以下 | 950万円超1,000万円以下 | 1,000万円超 | ||||
配偶者控除 | 48万円以下 | 配偶者が70歳未満 | 103万円以下 | 38万円 | 26万円 | 13万円 | 0円 |
配偶者が70歳以上 | 48万円 | 32万円 | 16万円 | 0円 | |||
配偶者特別控除 | 48万円超 95万円以下 |
103万円超 150万円以下 |
38万円 | 26万円 | 13万円 | 0円 | |
95万円超 100万円以下 |
150万円超 155万円以下 |
36万円 | 24万円 | 12万円 | 0円 | ||
100万円超 105万円以下 |
155万円超 160万円以下 |
31万円 | 21万円 | 11万円 | 0円 | ||
105万円超 110万円以下 |
160万円超 1,667,999円以下 |
26万円 | 18万円 | 9万円 | 0円 | ||
110万円超 115万円以下 |
1,667,999円超 1,751,999円以下 |
21万円 | 14万円 | 7万円 | 0円 | ||
115万円超 120万円以下 |
1,751,999円超 1,831,999円以下 |
16万円 | 11万円 | 6万円 | 0円 | ||
120万円超 125万円以下 |
1,831,999円超 1,903,999円以下 |
11万円 | 8万円 | 4万円 | 0円 | ||
125万円超 130万円以下 |
1,903,999円超 1,971,999円以下 |
6万円 | 4万円 | 2万円 | 0円 | ||
130万円超 133万円以下 |
1,971,999円超 2,015,999円以下 |
3万円 | 2万円 | 1万円 | 0円 | ||
133万円超 | 2,015,999円超 | 0円 | 0円 | 0円 | 0円 |
年収の壁を乗り越えるには?
年収の壁を乗り越えるためには、壁を意識した収入設計が重要です。
具体的には、以下のような方法が考えられます。
- 各種控除を最大限活用して、課税所得を下げる
- 社会保険料の壁ギリギリまで収入を抑える
- 扶養に入るメリットと自立のメリットを比較検討する
- 専業主婦(主夫)から共働きに切り替える
- 配偶者の年収を意識して調整する
いずれにしても、壁にぶつかる前から計画的に対策を立てておくことが大切です。
賢く働くための方法
年収の壁を超えて働く場合、どのように対処すればよいのでしょうか。ここでは、賢く働くためのポイントを解説します。
社会保険加入のメリットを理解する
年収106万円を超えて社会保険に加入することは、保険料負担が発生する一方で、医療保険や年金などの社会保障を受けられるメリットもあります。
特に将来の年金額アップにつながるため、長期的な視点が重要です。
配偶者控除等の申告漏れに注意
配偶者控除や配偶者特別控除の適用を受けるには、納税者本人が年末調整や確定申告で申告する必要があります。申告を忘れると、本来受けられるはずの控除が受けられません。必ず期限内に申告を行いましょう。
就業調整より収入アップを
103万円や106万円、130万円の壁を意識するあまり、就業調整で収入を抑えてしまっては、将来的な損失となりかねません。
壁を超えても収入を得られるよう、スキルアップを図るなど、前向きな働き方を心がけましょう。
年収150万円を超えると配偶者特別控除が段階的に減少していきますが、201万6000円までは一定の控除が受けられます。
年収を目安にしっかりと働くことが、家計の収入アップにつながります。
「年収150~200万円くらいまでは、積極的に稼ぐことをおすすめします。ただし、扶養の範囲内に収入を抑える”130万円の壁”は要注意。社会保険に入らないために収入を抑えるのは、長期的に見ると損になる可能性があります」
制度見直しの動向「年収の壁・支援強化パッケージ」
年収の壁について、政府は「年収の壁・支援強化パッケージ」を通じて、短時間労働者が働きやすい環境作りを進めています。
106万円の壁への対応
- キャリアアップ助成金「社会保険適用時処遇改善コース」の新設
- 社会保険適用促進手当を支給した場合の標準報酬月額・標準賞与額の算定基礎からの除外
社会保険適用促進手当の支給で、従業員は保険料負担増を抑えつつ働ける環境が整えられます。
130万円の壁への対応
年収130万円超の一時的な収入増加の場合、事業主の証明により引き続き扶養に入り続けられる仕組みが整備されました。
これにより、一時的な繁忙期の勤務調整などが不要になります。
配偶者手当への対応
配偶者手当の支給基準額が就労調整を招いている現状を改善すべく、企業に対し手当のあり方の見直しを促す動きがあります。
ただし、不利益変更となりうるため慎重な対応が必要です。
よくある質問
Q. 年収の壁とは何ですか?
A. 年収の壁とは、税金や社会保険料の負担が変わる年収のボーダーラインのことを指します。
Q. 130万円の壁で1ヶ月だけオーバーしたらどうなりますか?
A. 会社によっては、1ヶ月だけの収入増加では扶養から外れないというケースもあります。
通常は2ヶ月以上継続して130万円超になると、扶養から外れて社会保険料の負担が生じます。
まとめ
年収の壁について詳しく解説してきました。
年収100万円、103万円、106万円、130万円、150万円、201万円の6つの壁があり、それぞれ住民税・所得税・社会保険料の負担増や、扶養・配偶者控除の減額・廃止につながります。
年収が上がると税・社会保険料の負担増→手取り額の伸び悩み・減少といった問題が生じるのです。
この年収の壁を乗り越えるには、計画的な収入設計が肝心です。
年収103万円を超える場合は、住民税と所得税の支払いが発生します。
また、106万円を超えると、社会保険への加入義務が生じます。
一方で、配偶者控除等の制度を適切に活用することで、税負担を軽減できる可能性もあります。
壁を意識しつつ、収入アップを目指すバランスの取れた働き方を心がけましょう。
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